市民体育館を借り切ってキョンシーごっこをやりたい旨は、先に記した。
【キョンシーごっこ】
酒でも浴びながらやったら、とても楽しそうだ。
オレは死に顔メイクをして本格的なキョンシーになりきり、皆を襲って回るだろう。弱いだろうけど。
キョンシーごっこに限らず、小さい頃に楽しかった○○ごっこを、今の年齢になってリバイバルし、本格的にやってみたいのだ。手始めにお医者さんごっこでもしようか。
それもいいけど例えば、
【本格派、大人のかくれんぼ】
をやりたい。
小さい頃にはなかった経済力を投入し、かくれんぼよりもさらに上級者向けの、
「忍び」
を目指したい。
全裸になり、絵の具で全身に
擬態を施して風景に溶けてみたり、カーネルサンダースか、
ペコちゃんか、
二宮尊徳↓
のコスプレをして、鬼をあざむいてみたり。
自分の軽い体重を生かしてトータルリコールのクワトーのように、大男の腹部に埋まって、身を隠すのもいいだろう。
こちらからは見えているのに、鬼は気付かず必死になって探す様を眺めてほくそ笑むのが、かくれんぼの醍醐味である。
だから壷とか便器とかマンホールなどに完全に身を隠すのではなく、コスプレや全身擬態などで臨みたいのだ。
「ほらほら、オレはこんなに姿をさらしているんだぞ?それでも気付かないのか、ウキャキャ(笑)」
と、より興奮するはずだ。
とりわけ鬼が女性であった時に、全裸で擬態はたまらないであろう。
女性の鬼はこちらを見ているにもかかわらず、公然わいせつと近距離に対峙しているにもかかわらず、全く気付かないのだ。
興奮により荒くなる自分の呼吸が、女性の鬼に届かぬよう注意したい。
このように、かくれんぼは今やっても絶対に面白いと思うし、どうすれば鬼に見付からないか知恵を絞るのはとても楽しいはずだ。
例えば数年後に大地震が発生して首都圏が壊滅。一部都民が暴徒化。略奪と強姦が横行した時に、賊から身を隠す必要性が出てくるであろう。
このかくれんぼを事前研修として行い、来たるべき大地震に備えたいという女性の参加者も増えるはずだ。
誰にも見付からないところに隠れること、なにかものを隠すこと、というのは非常に頭を使う。
隠しても隠しても必ずエロビデオというものは見付かるものである。しかしギターケースの中に隠しているエロビデオだけはバレなかった。
詮索癖の強い女性でもさすがに男の商売道具には手を触れないという事を、そこでオレは学習したのだった。
それ以降、見付かりたくないものはギターケースに隠すというのがオレの習性となった。
だからオレは、「大人のかくれんぼ第一回目」は、特大のギターケースを買ってきてその中に潜んでいようと思う。
オレを必死になって探す鬼の動向は見たいから、顔の部分だけギターケースに丸く穴をあけ、外を覗いているだろう。
大人のかくれんぼについて色々考えていたら、その先駆者が実は身近にいたことに気付いた。
江戸川乱歩著『人間椅子』の主人公、椅子職人だ。
彼は椅子と同化し、思いをよせる人妻の書斎の椅子として潜入する事に成功した。
その告白の手記を、奥さんは彼のひざ上に座る、まさにその人間椅子の上で読む事となるのだ。
奥さん専用の椅子の中に潜んでいた事に、それまで全く気付かれることの無かったスケベな椅子職人。
大人のかくれんぼの祖たる、完璧な忍びと言えるだろう。