廃病棟風セット内を歩く、「超・戦慄迷宮」なるお化け屋敷に入った時の体験談を記しておきたい。
さすがにこれは、ちょっとどころの怖さではないだろうと思った。本格的だ・・・。
しかしここで逃げたら男がすたる。涼しい顔で入った。中に入るとすぐ、病院の待合室になっているのだが、一瞬ドキリとした。
病院特有のあの、消毒のにおいがプ-ンと漂っていたのだ。
「ふ、ふ~ん。ほ、本格的ですね・・・」
と、恐怖が増す。
まずは待合室にて、血まみれになった看護婦風スタッフから注意事項を聞く。
いつも思うのだが、唯一愛想が悪くて許される(いや、愛想の悪い方がよい)接客って、お化け屋敷のスタッフだと思う。
「いらっしゃいませ~!ダンナもひとつどうです、戦慄迷宮!怖いよ怖いよ~(営業スマイル)」
じゃ、恐怖の雰囲気も壊れる。
よって、注意事項を暗~い声色で話す看護婦さんはいい感じなのだった。印象的だったのは、
「スタッフへの暴力は絶対にやめて下さい」
というものだった。多分驚かそうと襲い掛かってきた幽霊に、
「なにすんだ!このぉ!」
と半泣きで逆ギレる人があとを断たないのだろう。それだけ怖いのか!?
注意事項も一通り聞き、ペンライトをもって荒廃した病院内を進む。
セットとは思えないリアルさだった。なにが怖いって、曲がり角が怖い。先が見えないところを曲がり、一瞬で視界に入ったモノにドキっとくる。
部屋の中を進行方向順に移動するのだが、ハプニングが起こる部屋と起こらない部屋があるので、油断が出来ぬ。
女性を連れていれば、
「あああ~助けてママ~」
などと、女々しいことも言えないし・・・
「フン、全然怖くないね」
などと言っていた。
しかし実際も、そこまで怖いという印象はなかった。肝が据わっているのかな?
ドッキリはあっても、目をつぶるほどでもないし、驚かすスタッフのタイミングがちょっとずれたりすると、
「残念、もっと驚けただろうに」
と思うようになった。連れのかたは、キャ~と腕にしがみ付いていたが・・・
「廃病棟を歩く恐怖」という、非日常の疑似体験を楽しめるようにすらなった。
しかしそれは、後半部分で邪魔されることとなった。
このお化け屋敷は、先に進むカップルに追いつかないように、何分かの間を開けて中に入っていくのだが、オレ達の先に進んでいたカップルがあまりにも進むのが遅く、グイグイと連れを引っ張って進むオレは、追いついてしまったのだ。
お化け屋敷では、不意をつかれて驚かされドキっとしたいのに、目の前を歩く二人が受けるドッキリを先に知るところとなれば、お化け屋敷の醍醐味が半減する。
前の二人が視界から消えるまで、オレ達は暗闇の中、待つことにした。だがそう長くも待っていられない。後ろから次のカップルも迫ってくるから。
もう限界だろうという所で、進行を再スタート。しかし、前の二人が遅すぎて、また追いついてしまったのだ。
前を歩くカップルは、部屋にいる幽霊に恐れて先に進めなくなっていたり、追いかけられて進行方向とは逆に逃げたりもしている。
お化け屋敷にもそれなりのマナーがあるのだが・・・。怖いのは分かるが、後ろからくる人の事も考えるべきに思う。
仕方がないので追い越すことにした。前を歩くこの二人に、楽しい恐怖の時間を邪魔されたくはない。
「すみません」
と言いながら、ささっと二人の間をすり抜け、前に出た。
するとどうだろう、そのカップルは!さっきまでの牛歩から、オレのスタスタと進む後ろにピタリとくっ付き、一緒について来るではないか。
毅然とお化け屋敷を進むオレを、頼りにしたかったのか?オレは今デートをしているんだよ。なにが楽しくて4人かたまってお化け屋敷を進まなきゃいけないんだ。
しかしそのカップルは、「これで一安心」と言った風にすぐ後ろで笑ったり、そしてたまに驚いたりして、最後までオレに付き従ったのだった。
「戦慄迷宮」の恐怖も、密着暗闇デートのお楽しみも、すべて半減させられた後半部分だった。
こうしてオレは、連れの女性を含む怖がり三人を従え、無事「戦慄迷宮」をクリアしたのだった。
「いつでもどこでも誰にでも頼りにされる男だな、オレは・・・」
と、気持ちの持って行き場を見い出さなければ、二人のカップルに抗議していただろう。