実家でオレは寝転がっていた。目の前を飼い猫、キヨハルが通り過ぎた。
床に寝転がるオレの顔の高さに、キヨハルは通り過ぎていった。
周知の通り猫は尻尾をピンと立て、肛門むき出しに歩いていく。ぷーんと肛門がにおっていた。
先へ行こうとする彼をガッと捕まえトイレへ行き、消臭スプレーを手に取った。嫌がる彼の肛門に直接シューっと吹きかけると、
「うぎゃぁー」
と言っていたが、多少肛門の臭みはとれたようだった。
数日間、彼はオレに近寄る事はなかった。
その何日か後、食事をしていると彼も家族の一員としてテーブルにやって来た。
以前は共に食卓を囲んでいたのだが、人間の食べ物は猫の体質には合わず、それが元で病気になったりし、実家に帰るたびに父親から、
「キヨハルは20万円もする高級猫なんだぞ」
(※ケガや病気をした際にかかった医療費がこれまで20万円程にのぼった意。彼は貰ってきた雑種なのでタダです)
と言われるので、今は一切与えていないのだがあまりにも食べたがる彼に、心を鬼にした対処をとる事にしたのだ。
食卓をのぞく彼の顔をガッとわしづかみ、「うぎゃぁ~」と鳴いたその舌の上にワサビを塗ってみたのだ。
キヨハルにとっては物凄い衝撃だったようだ。一瞬硬直したかと思うと目が飛び出さんばかりにまん丸にし、どこかへ走って行った。
それ以来彼は一切家族と共に食事をする事はなく、病気とも無縁になりました。めでたしめでたし。
・・・というハッピーエンドが彼を待っていたわけではなかった。
自分の身に何が起こったのか分からなかったのだろう。部屋中を走り回りもがき、目と鼻と口から泡を吹いていたキヨハルなのだった。
さすがにかわいそうになったが、彼のためを思えばそれを傍観するしかなかった。しつけというのは時に心痛いものである。
これに懲りてもう人間の食べ物を欲する事は控えるだろうと思っていたが、キヨハルは全く懲りてはいなかった。喉元を通り過ぎたワサビの味を忘れた頃に、
「にゃぁ~(なにか食わせろ~)」
と、またやって来たのだ。
彼のためを思い、もう一度心を鬼にして接した。
「おいで」
優しく手招きをし、喜び近寄ってきた彼にマグロの刺身を与えた。
刺身の横から切り込みを入れ、その中にたっぷりのワサビをすり込んだ、MINATO特性刺身を。
彼は幾多の困難にもめげず、今も幸せに実家のストーブの前で丸くなっています。
うまそうだにゃあと匂いをかぐ、キヨハル夏の記憶