数年前のクリスマスイヴ、部屋でのパーティ。
「チーズフォンデュを作ります」
楽しみに待つオレ。
このスイス料理、チーズをワインで溶かして作るようだが、彼女はワインの配分を間違えた。
「出来ました」
「うまそうである」
しかしナベから立ち上がる湯気は、チーズ臭ではなくあきらかにワイン蒸しの香りだった。
不穏な心持ちになるも、とりあえずブロッコリーをチーズに付けてみた。
やはりワインの配分が圧倒的に多い。チーズは牛乳のようにサラサラだった。
なんとかチーズを付けて食べたいブロッコリーだったが、チーズに全く絡まない。
仕方ないので、サラサラのチーズをおたまで器によそい、具をほお張った。
鍋かよ!
そして思いもよらない事態が起きた。
そのチーズフォンデュ鍋で酔い潰れてしまったのだ。
サラサラになるほどのチーズ、相当なアルコール含有量だったのだ。隠し味に使う洋酒、KILLシュワッサーの配分も、その後の彼女の証言で分量差し違いが発覚。
はっと目覚めると、すでに明け方。
火にかけっぱなしだったチーズフォンデュはほとんど蒸発し、辺りを見回すと台所の前で意識を失っている彼女の姿が・・・
食事を終えてから楽しみにしていたプレゼント交換、飲み交わしつつ甘い会話、少しづつ肩を抱き、そして・・・。
描いていたイブの熱い夜は、全てそのチーズフォンデュ鍋で吹き飛んだ。
そしてオレは、
"チーズフォンデュに含まれるワインで酔いつぶれた男”
というレッテルをずっと貼られることとなった。
しかし、
「彼女がチーズとワインの配分を間違えてね・・・」
などとは言い訳をしない、ドリンカーの掟を今も遵守している。